しばらくして、佐奈が光輝と共に警察署から出てきた。
光輝には、見合いのことは触れずに、そのままタクシーで帰って欲しいとお願いしておいた。
光輝は警察署の前で足を止めると、佐奈に微笑んだ。
あんな完璧な男。
女だったら絶対惚れるよな。
コーヒーショップから二人の様子を見つめていると、佐奈は光輝に何かを囁かれて照れたように俯いた。
思わず二人から目を逸らす。
この先、
俺はどこまで耐えられるだろうか。
ふと、そんな不安が頭をよぎった。
……
光輝が立ち去った後、佐奈に声をかけた。
振り向いた佐奈は、俺を見て表情を曇らせる。
『こんな場所に一人できて…一体どういうつもりだよ! どれだけ心配したと思ってるんだ!』
思わず感情的に怒鳴ってしまった。
『知らない! 圭吾には関係ないでしょ! 私のことなんてほっておいて』
プイッとそっぽを向く佐奈を無理やり連れて帰ろうとすると、佐奈は大声で泣き叫んだ。
『何よ。誰のせいだと思ってるのよ! 父と二人で二年も私を騙してたくせに! 今度は父に何を頼まれたの? 私を連れ戻して見合いさせろとでも言われた? 圭吾も父も勝手なことばかり。もうウンザリよ! 父の顔も圭吾の顔も、もう二度と見たくない!!』
何も言い返せなかった。
佐奈が怒るのは当たり前だ。
彼女をこんな目に合わせているのは、間違いなく俺なのだから。
それでも…。
佐奈に父親だけは恨んで欲しくなかった。
『佐奈…。俺のことは一生恨めばいいよ。一生許さなくていい。でも、社長のことだけはー』
言葉の途中でスマホの音が入る。
無視しようと思ったけど、社長の顔が浮かんだ。
そうだ。早く安心させてあげなければ。
急いでコートからスマホを出し電話に出ると、佐奈はムッとした顔で歩き出した。
“すいません! マサヨです。旦那様が大変なんです!”
耳に響いてきたのは、家政婦のマサヨさんの声だった。
社長は心臓発作を起こし、病院に運ばれたという。
来るべき時が来たのかも知れない。
俺は佐奈を連れて、急いで病院へと向かったのだった。



