とりあえず車をパーキングに止めて、GPSを頼りに夜の街を走った。
『よりにもよって何でこんなところに』
まるで、か弱い子鹿を肉食動物達のいる夜の草原へと放り出してしまったような心境だった。
『なあ、圭吾。あれ違うか?』
光輝が指さした方向を見ると、佐奈がホストらしき男に絡まれているのが目に入った。
『佐奈!』
急いで駈け寄ろうとしたその瞬間、地面に落ちた佐奈のバッグを後ろから走ってきた男が掴んで逃げた。
『あいつ! 光輝、悪い! 俺はをあの男を追いかけるから、佐奈を連れて警察に行ってくれ!』
『分かった。気をつけろよ!』
『ああ』
俺は光輝に佐奈を託し、逃げていく男を追いかけた。
陸上もやっていたし、空手だって有段者だ。
佐奈のバッグを取り返す自信はあった。
けれど、男の背中を掴もうとした瞬間、俺は激しい頭痛に襲われた。こんな時の痛み止めならもらってあるのだが、飲んでいる暇などない。
そうこうしているうちに、男との距離はどんどん離されていく。
ダメだ。逃げられる!
俺は咄嗟に転がっていた石を拾い上げ、男の足元を狙って投げつけた。
『イテッ!』
石は男の足に命中し、男は足首を押さえながらその場にうずくまった。
俺は佐奈のバッグを男から取り上げた。
『今回は見逃してやるよ。その代わり二度とすんなよ。おまえの写真、証拠としてとっておくからな』
男にそう告げて、俺は警察署へと向かった。
きっと佐奈は泣いているに違いない。
このバッグの中には、佐奈の母親が生前に作ったマスコットの御守りが入っているからだ。
早く届けてあげたくて、警察署へと急ぐ。
そして、入口に立っていた警察官にバッグを託し、俺はそのまま立ち去った。
ここは光輝に任せた方が良いと思ったからだ。
お見合い相手が前に自分を助けてくれた男だったら、佐奈が運命を感じるかもしれないと思ったのだ。
俺は近くのコーヒーショップに入り、痛み止めを飲んだ。
痛みはだいぶ治まってきたけれど、確実に病気が進行しているのだと思うと気が滅入る。
俺は重たいため息をつきながら、佐奈達が警察署から出てくるのを静かに待っていた。



