『でも…正直、佐奈が社長にまで反抗するとは思わなかった。縁談の件もしばらくは無理そうだ。早く光輝に会わせて、佐奈の心を少しでも楽にしてやりたいんだけどな』
ため息をついた俺に光輝がこう返す。
『それだけおまえを愛してたってことだろ。今、俺に会ったところでどうにもならないと思うぞ』
『いや、こんな時だからこそ、おまえに会えばきっとおまえを気に入ると思うんだよ。もともと佐奈は、おまえみたいな“王子”っぽい男に強い憧れがあるからな』
『王子っぽい男? 何だよ、それ』
光輝がふっと笑う。
実はその笑った顔が、佐奈が密かに憧れているミュージカル映画の“王子”役の俳優にちょっと似ているのだ。
光輝は冗談に受け取ったみたいだけど、俺はけっこう真剣に言っていた。
『まあ、佐奈ちゃんに気に入ってもらえるように、最大限の努力はするつもりだけどね』
そんな言葉が光輝から返ってきた時、俺の携帯に社長からの着信が入った。
“こんな時間にすまない。実は佐奈がまた家を飛び出してしまったんだよ”
社長の慌てた声に緊張が走る。
今度は俺のところじゃない筈だ。
『分かりました。すぐに探しに行きます』
俺は通話を切って、佐奈の位置情報を確認した。
『光輝。悪いけど、おまえも一緒にきてくれ』
『分かった』
こうして俺は光輝を車の助手席に乗せて、佐奈の元へと急いだのだけど……。
“新宿歌舞伎町”
たどり着いた先は、とんでもない場所だった。



