佐奈の誕生日から、ちょうど一週間が過ぎた月曜の夜。
俺は仕事帰りに光輝のマンションを訪れていた。
『彼女の様子はどうだ?』
そう尋ねてきた光輝に、俺はため息交じりにこう答えた。
『相変わらず部屋に閉じこもってるよ。大学も休んでるし、ご飯もあまり食べれてないようだ。予想はしてたことだけど……可哀想でとても見てられない』
光輝は『そうか』と呟き小さく頷く。
佐奈は誕生日の翌日、俺のことを“ニセの恋人”だと聞かされた。
ショックを受けた彼女は、そのまま家を飛び出して、俺のマンションへと向かったのだ。
もちろん、そうなることは想定済みで、西澤さんにも車で待機してもらっていたのだが……、佐奈は西澤さんの目をスルリとすり抜けて、一人でタクシーに乗ってしまった。
おかげでヒヤヒヤしながら彼女の到着を待つハメになってしまったけれど、それでも何とか佐奈はやって来た。
『何しに来たの? 社長から俺のこと聞いてないの?』
マンションのエントランスで、俺は佐奈を素っ気なく突き放す。
『聞いたけど…信じられなくて確かめにきたの。圭吾は私のことをちゃんと愛してくれてたよね?』
必死に訴えかけてくる佐奈に、俺は更に冷たい言葉を浴びせた。
『報酬目当てでお嬢様の恋人ごっこに付き合ってただけ。でも、悪いけど、これ以上は付き合えないんだよ。俺は結婚も控えてるし、独立して会社も立ち上げるつもりだから。だから、そろそろ俺のこと、解放してくれないかな』
こんな残酷な言葉を自分でもよく言えたと思う。
それでも佐奈は、
『嘘だよね? 何か事情があるんでしょ? お願い、圭吾! 本当のことを教えて!』
そう言って、すがるように俺の胸にしがみついてきた。
俺はそんな佐奈に、『証拠を見せる』と言って、同期の伊藤七菜が俺の部屋にいるところを見せた。
伊藤には事情を全て打ち明けて、ニセの婚約者役を引き受けてもらっていたのだ。
ちょうど彼女は指輪のサイズも佐奈と同じだったから、薬指には佐奈に渡す筈だった婚約指輪を嵌めておいてもらった。
佐奈は、過去に俺と伊藤との仲を誤解したことがあるだけに、今度はすぐに信じた。
こうして俺は、誰よりも愛しい佐奈の心を、悲しみのどん底へと突き落としたのだ。



