『佐奈……』
俺は彼女の口をキスで塞いだ。
そっと優しく触れた後、ゆっくりと舌を送り込むと、『んっ』と彼女から甘い声が漏れた。
『今からキス以上のことするよ』
『うん』
『怖い?』
『怖くない……けど…緊張してる』
『じゃあ……ちょっと緊張ほぐそっか』
キスの合間にそう言って、俺はワインを口に含んだ。
そして、そのまま彼女の口の中へと流し込んだ。
それを何度か繰り返すと、アルコールに慣れていない佐奈はすぐに眠りに落ちた。
俺は彼女をすくい上げて、ベッドへと運んだ。
『ごめんな、佐奈。ちゃんと愛してやれなくて…ごめん』
謝りながら、佐奈に何度も口づける。
そして、俺は佐奈の為に用意していた婚約指輪をポケットからとり出した。
K to S with love
(圭吾から佐奈へ 愛を込めて)
指輪にはそんな刻印と共に、佐奈の誕生日の日付を入れてもらってあった。
『佐奈……今夜だけでいいから、つけてくれるか?』
俺はひとり呟くと、眠っている彼女の薬指にそっと指輪をはめた。
『佐奈……愛してるよ』
彼女の顔がだんだんと涙でぼやけていった。
…………
翌朝、佐奈はガックリしていた。
『私って…昨日どうしたんだっけ?』
そんな問いかけに、俺が『酔っぱらって寝ちゃったよな』と答えたからだ。
『また、時間のあるときにな』と言うと、佐奈は残念そうに頷いていた。
そして、そのまま彼女を大学まで送り届けた。
『頑張っておいで。佐奈』
俺は笑顔でそう言ったけど、胸が張り裂けそうだった。
佐奈がこの車を降りてしまったら、俺はもう彼女の恋人ではなくなる。
それどころか、彼女を傷つける存在になるのだ。
『うん。送ってくれてありがとう。大好きだよ、圭吾』
何も知らない彼女が、屈託のない笑みでニコリと笑う。
俺は思わず抱きしめて、彼女にキスをしてしまった。
キスの記憶なんて、残しちゃいけなかったのに。
自分を止めることができなかったのだ。
そして、今夜、俺は。
彼女を深い悲しみの奥底へと突き落とす。
ごめんな、佐奈。
早く俺を忘れてくれ。
会社へと向かう車の中で、ひとりそう呟いていた。



