それでもあなたを愛してる


そして、その翌日
俺は社長に、病気のことを告白した。

『申し訳ありません。佐奈さんとの結婚は無かったことにさせて下さい……』

『そうか……分かったよ。君だって辛いよな』

社長はそのまま言葉を失い、拳を握りしめながら泣いていた。

『社長。そこで提案があります』

俺は光輝との縁談の話を持ちかけた。

『彼ならきっと、佐奈さんを幸せにしてくれるはずです。佐奈さんがハタチの誕生日を迎えたら、彼女に彼との縁談を勧めて下さい』

けれど、社長は首を横に振った。

『いや…佐奈はそんなこと望まないよ。君の最後の瞬間まで佐奈は君から離れないだろうし、君がこの世を去ったとしても君だけを愛し続けるだろう』

『はい…。ですので、それを避ける為に、社長には彼女に嘘をついて頂きたいんです。“真崎は自分が雇ったニセの恋人だ”と伝て下さい。ハタチの誕生日までという契約で、あの男には結婚を控えた婚約者もいると。佐奈さんはショックを受けるとは思いますが、私への未練だけは残らないはずです』

そう告げると、社長は躊躇うようにこう返した。

『いや……でも……君はそれでいいのか?』

『もちろんです。彼女の幸せの方が大事ですから』

『すまない……佐奈の為に本当にすまない』

佐奈の誕生日を二十日後に控え、
俺と社長は、社長室で密かにそんなやり取りを交わしていたのだった。


………


そして、とうとう佐奈はハタチの誕生日を迎えた。

その夜、俺は光輝の務める『サクラージュホテル』のスイートに佐奈を連れて来た。

本当はここで、佐奈にプロポーズをして、彼女の指に婚約指輪を嵌める筈だったけど。

プロポーズどころか、これが佐奈と恋人でいられる最後の夜となってしまった。

『圭吾、すごいよ! 夜景が綺麗だよ』

そんなことを知る由もない佐奈は、大きな窓に張り付いて
無邪気な様子で笑っていた。

『佐奈。こっちにおいで。一緒にワイン飲もう』

俺は佐奈をソファーに呼んで、彼女にグラスを持たせた。
ルームサービスで運ばれてきたワインは、佐奈を眠らせる為に頼んだものだ。

『じゃあ、佐奈のハタチの夜に乾杯な。おめでとう、佐奈』

『うん。ありがとう』

佐奈はにこにこしながら、ワインに口づける。

そして、 

『ねえ…圭吾。今夜は“私の初めて”をあげるんだよね?』

少し照れたようにはにかむと、佐奈は俺の胸へと甘えてきた。

『うん。いい?』

そう耳もとで囁くと、佐奈はコクンと頷いた。