「圭吾、遅いな……」
テーブルの上に並んだ料理は、すっかり冷めてしまった。
夜の9時。
一緒に住むようになってから、こんな時間まで帰って来なかったことなんて一度もない。
連絡もないなんて、ちょっと変だ。
もしかして、圭吾の身に何かあったのだろうか?
私は嫌な胸騒ぎを覚え、圭吾の携帯に電話をかけた。
『プルルル。プルルル』
呼び出し音を聞きながら静かに待っていると、7、8回目のコールでようやく電話が繋がった。
けれど。
「はい。もしもし」
出たのは女性の声。
七菜さんだ。
「あ……えっと」
慌てる私とは対照的に、電話からは落ち着き払った声が返ってくる。
「すみません。お嬢様。圭吾は今、シャワー中なんです。よろしければ、何かお伝えしておきましょうか?」
「い、いえ! けっこうです」
私はそのまま電話を切った。
しばらくぼう然と立ち尽くす。
そっか…。
そりゃそうだよね。
今日は誕生日だもんね。
彼女と過ごすに決まってるよね。
こんな習い立てのハンバーグでなんて、お祝いされたくもないだろうし。
ケーキだってグチャグチャだしね。
うん。
ちょうど良かったよ。
私は泣きながら、ハンバーグを口に放り込んだ。
まさしくヤケ食いだった。
「ケーキも全部食べてやる!」
フォークを苺に突き刺した瞬間、『ピンポン』と玄関のチャイムが鳴った。
「え?」
こんな時間に誰だろう?
私はインターホンのカメラを確認した。
「あ……。西島さん?」
慌てて玄関へと向かう。
「あの…どうかしたんですか? こんな時間に」
ガチャとドアを開けてそう言うと、西島さんはハッと顔を上げた。
「佐奈ちゃん。今、僕だって分かっててドア開けた?」
「え? あ、はい。ちゃんとカメラで確認しました…けど」
それだけは圭吾に口をすっぱくして言われていたから、おかげでキチンと身についていた。
「そうか。ならいいんだけど。あっ、ちょっと上がってもいいかな?」
「は、はい。どうぞ」
婚約者なんだから断る理由なんてない。
いきなりの訪問にちょっと身構えながら、私は西島さんをリビングへと案外した。



