ヤダ、どうしよう…。
私はうずくまるように、その場にしゃがみ込んだ。

圭吾
助けて!

心の中でそう叫んだ時。

「大丈夫?」
頭上から男性の声がした。

「今、ひったくりにあってたよね? 怪我はない?」

優しく声をかけてきたのは、どことなく圭吾に雰囲気が似た若い男性だった。

「だい…じょぶです。でも……バッグにはとても大切なものが入ってて」

涙が溢れてきた。
実はあのバックの中には、生前に母が作ってくれたマスコットの御守りが入っていたのだ。

「そっか。じゃあ、とりあえず、一緒に警察に行こう。犯人の特徴なら、僕がちゃんと覚えてるから」

私は黙って頷いた。
今の私には彼しか頼れる人がいなかったから。

「そうだ。一応、僕の名刺渡しておくね。見ず知らずの男についていくのも不安でしょ」

彼はそう言いながら、スーツの胸ポケットから自分の名刺を取り出した。

“サクラージュホテル
専務取締役 西島光輝”

うそ、サクラージュホテル?

それは、私の誕生日に圭吾が連れて行ってくれたホテルの名前だった。
しかも、専務取締役って……。

渡された名刺を見て驚いていると、彼は私の前に手を差し出した。

「さっ、立って」

そうだ。
今はそんなこと考えている場合じゃない。

私は涙をふいて、彼の手を取ったのだった。



………



交番に着くと、早速西島さんが私の代わりに事情を話してくれた。

犯人の特徴まで事細かく証言してくれて、その情報はすぐに巡回中の警官へと伝えられた。

「それでは、被害届を作成するので、あなたも現場検証に立ち会ってもらえますか?」

お巡りさんが西島さんに声をかけた時だった。

私のバッグと特徴がよく似たバッグが警察署に届けられたという情報が入った。

「良かったね。早速、確認に行こう」

西島さんが力強くそう言った。

「はい」

こうして、私は西島さんと共に警察署へと急いだのだった。