放課後

チャイムが鳴るとすぐに荷物も持たずに教室を出る。

早足で階段を降りて、いつものように廊下を走る。

3年生の階はいつも賑やか。廊下には部活に行こうとしている人や、友達と話している人達でいっぱい。

私はその人たちの中を抜けながら目的のクラス、3年5組へ急ぐ。

5組の前に立つと教室の窓は開いていた。

後ろから3番目の窓の所に私はいつものように、コンコンとノックする。

すると、頭を出してくる男子。


「おー、麻弥。来ると思った。」

「怜央先輩助けてやばいです!」


1つ年上の怜央先輩は、いつも私の相談相手。

先輩というだけあって、いつも私より大人な事を言ってくる。

私は、制服のポケットから折り曲げだ成績表を広げる。


「ここ!ここ見てください!」


先輩は、私が指を指している数学の点数の所を見つめる。

そこに記されている点数は50点。


「…まぁまぁだな。」


何だそんなことか。と言わんばかりの顔で呟く先輩。

いや、もっと何か言ってよ!


「私、数学苦手じゃないですか。だから先輩に勉強教えてもらったのにこの点数ですよ?」


私は申し訳なかった。先輩もテストがあるというのに、時間を私のために使ってまで教えてもらったのにこの点数。

先輩が「お前ならできるよ」と笑顔で言ってくれて、やれるかもって思ったらこのくらいの点数。

私はため息をつく。


「本当は70以上とって、先輩にやればできるとこを見せつけたかったのに。」


「そうかそうか。」


私の頭にふわりと手を置き撫でてくる。
先輩の手は大きくて、すっぽり頭が入りそうなくらい。

また子ども扱い…髪の毛崩れるから嫌なんですけど。

私は先輩を睨むように見ると、先輩は可笑しそうに笑う。


「やめてくださいよ。」

「何だよ。本当は満更でも無いだろ〜?」


ふっと鼻で笑う先輩に、何だかイラッとする。

私をからかって楽しいんですか!


「勉強頑張った私にご褒美として何か奢ってください。」

「さっきまで点数低くて落ち込んでたくせに何だよ!」


えへへと笑ってみせる。先輩といるとどうしても妹になった気分になる。

先輩のクラスの人からも「可愛い妹ちゃんだね」と言われたりするし、周りから見てもそんな感じなのかな。

先輩は席を立ち、荷物を持つ。

毎日持っている大きなスポーツバックには、スパイクやタオルがごちゃごちゃ入っている。

先輩のスポーツバックは砂っぽく、いつも「制服には近づけないで。」と注意しているくらい汚れてる。


「じゃあ、今週の土曜日練習試合あるからそれ見にこいよ。その後、何か好きなもの奢ってやる。」

「やったー、先輩大好きー。」

「おい、棒読みやめろ。」


頭に軽くチョップされる。このやり取りはいつもの事。

今週の土曜日か…。何も予定はないし、いっか。

先輩はサッカー部で、こんな感じでもエースらしいし、うまいんだろう。

「じゃあな。」と部活に向かおうとする先輩を呼び止める。


「あの…その練習試合って、どこの高校とするんですか?」

「ん?確かー…西高校だったかな。」


西高校…。

西高校のサッカーは強豪校で、いつも大会でいい成績を残している。

サッカーの上手な人が集まるから、それだけ力を入れている学校。

だからあいつも……。

私は先輩から目線を逸らし、下を向く。


「どうした?麻弥?」


私の顔を見上げるようにかがみこむ先輩。


「…どうもしないです。」


そんな先輩の顔を人差し指で突く。


「ほら、部活行ってください。」

「俺に見つめられて照れてんのか?」


先輩も私の頬に指を当ててくる。

本当、からかうの好きだな。


「はいはい、行って行って!」

「冷たいなー。俺これでもモテるのに。」

「モテる人は自分でそういうこと言いません。」


相変わらずずっと笑顔で、ニコニコしてるな…。

私は階段まで先輩を見送る。

下まで降りたところで立ち止まると、上を向いて私を見る。


「麻弥、土曜日楽しみにしてるから!」


子どものような笑顔でピースしてくる。

何だか馬鹿らしくて吹き出してしまう。

私も返事代わりにピースしてみせた。


「そろそろ帰るか…。」


教室に戻ろうと、階段を上がろうとする。


「麻弥いたいた、帰ろー。」

「もー遅すぎ。お腹減ったどっかいこ。」

「萌夏、凛!ごめん待たせて。」


友達の宮原萌夏と白鐘凛。

いつも一緒にいる友達。親友ってやつ。


「あーあ、鞄重いなー?」


萌夏が、わざとらしく重そうにして持っているのは私の鞄。


「いつもすみません、感謝ですー。」


私達は喋りながら靴箱へと向かった。

話している時、私はさっきの先輩との事を思い出した。


「ねぇねぇ、今週の土曜日って暇?」

「別にないけど、どうしたの?」

「私もないよー。」

「じゃあさ、サッカーの試合見に行かない?先輩に来てって言われてさ、2人も一緒に行こうよ。」


萌夏も凛も、また先輩かと苦笑いする。

2人共練習試合に行くと言ってくれた。


「でさ、どこの高校とするの?」


凛は目を輝かせて聞いてくる。


「あんた男狙ってんでしょ!」

「狙ってるだなんて!違うよ、出会いがほしいだけ!」


萌夏が凛にツッコミを入れて盛り上がっている。

そんな中、私は顔が引きつる。

だって…。


「相手は…西高校です。」


息ぴったりに2人は「え」と固まった。

まぁ、2人が固まるのも仕方ないか…。


「麻弥、西高校とって…あんた大丈夫なの?」

「そうだよ、だって西高校といえば、信濃がいる高校じゃん!」

「うん…。」


信濃とは、信濃涼介。



私の初恋で…



私の前の彼氏。