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朝、起きてすぐ階段を駆け下り、遅刻!と叫びながら、弟によく似合うであろうピカピカの幼稚園の服を着せた。
少し黒く焦げたパンをくわえて、まだ6歳の弟と一緒に家を飛び出す。
「悠、ちゃんと掴まっててね」
悠、というのが私の弟の名前。生意気な時もあるけど甘えたがり。だから、何をされたって許しちゃうし、にくめない。
今日は私も高校の新品の制服を身にまとい、自転車にかけた足に全力をかける。
「いってきまーす!」
7時30分になった時計の文字盤を見て、自転車で前へ進む腕と足に一層力が入る。
中学も自転車通学だったから、今年から小学校に上がる悠を後ろに乗せてもきつくないけれど、体力が大丈夫でも距離は短くはならないし、時間は待ってくれない。私の背中ではしゃぐ弟と一緒に、高校とは反対方向のなつめ小学校へ急ぐ。そんな私の名前は瀬戸南 苺(せとないちご)。普通の出来立ての女子高生。
「ねぇ、姉ちゃん」
後ろから抱きついてくる悠は、風の音で掻き消されるような小さい声で話した。
「え?なに!?」
聞き返すと大きな声で返事がかえってきた。
「今日は姉ちゃんご機嫌だね」
私は黙って幼稚園へ進んだけど、ご機嫌な理由があった。
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それは、親友との再開。小学校の頃、地元の中学から離れた中学に転校してしまったからなかなか会えなくって、最後には喧嘩して謝ることも出来なくて、そのまま離れてしまった、私の親友だった子。
今その子が私のことを覚えているかは分からないのだけど。
真冬の寒い中、受験番号の合格発表の日、黒髪の重ためのボブに、赤いマフラーをして、黒いチェスターコートに見かけない朱色のチェックのスカート、そして白いブラウスの制服にタイツを身につけたその子は、笑いもせず、泣きもせずに1人で番号を見つめていた。
その子が印象に残っていた。雰囲気は変わっていたから分からなかったけど、きっとその子が私の親友だ。私は家族と一緒で、声をかけられなかった。あの頃と見た目も、ましてやずっと会ってなくて、間違えたら恥ずかしいって思ってしまっていたけど、瞳は釘付けになっていた。そして、その子がこちらに振り向いた瞬間、それは間違いなくあの子だという確証にかわった。