「幸子お嬢様が鹿島にとって特別な存在だってことはわかってる。その上で俺はお前を紗千さんにつけた」
厳しい口調を崩さないまま久住さんは話し続ける。
「お前の腕を見込んでのことだ。彼女を守るだけではない、それが結果幸子お嬢様を守ることにも繋がるからだ」
幸子お嬢様に近づく者は下心のある者が多い。
小野田紗千も、父親の借金のためにこんな危険な仕事を平気で引き受けた。
なにか、それ以上の事を企んでいる可能性もある。
小野田紗千が安全な人間かどうか、それを見極めるのも俺の仕事だ。
「その上で、お前は全力で彼女を守るべきだった」
「…はい」
心の中で、顔が似ているだけの彼女に嫌悪感を抱いていたのは確かだ。
プロ失格。
俺は拳を握った。
悔しい。
久住さんの期待に応えられなかった。
彼女を守れなかったことよりその方が苦しいなんて、俺はつくづく人間失格なのかもしれない。


