「あの、竜。今日は来てくれてありがとう」
あの後、竜は何やら黙り込んでしまって、あまり思い出話は盛り上がりはしなかった。
何か考え込んでいる様子だったけど、どうしたんだろう。
「…なあ紗千」
「え?」
「お前が言っていた、魔法の言葉。もう一回教えてくれないか?」
「魔法の…。あ、お父さんが教えてくれたやつ?」
大通りまで見送りに出たところで、ずっと黙り込んでいた竜が口を開いた。
「ケセラセラ、だよね。なんとかなるって言葉。お父さんが小さい頃から私に言い聞かせてくれてた言葉なんだ。なにか辛いこと苦しいことがあっても、ケセラセラって唱えて笑っていたら、笑顔が幸せを運んでくれるって」
「…」
「今はそんなうまくいくことばかりじゃないし、何とかならないことだっていっぱいあるってわかってるけど、でも、今でもその言葉があるから前を向いて笑ってられるのかなって思ってるんだ」
私が笑ってそう言うと、竜は「そうか」と言って帰っていった。
様子がおかしかった。
どうしたんだろう。


