「なんで竜がもってるの?」
「紗千があげたんだろ?」
それに答えたのはお父さんだ。
あげた?私が?
「あの後、お父さんも紗千がもっていないのに気付いて聞いたんだ。そしたらお兄ちゃんにあげたって」
「え?」
「えんえんしてたからって。お兄ちゃんにニコニコになってほしいからあげたんだって言ってた」
「そ、そうなんだ…」
覚えてない。
その頃のきくって本当におぼろげというか、はっきりとしなくて。
そのピンは覚えてるし、お母さんから買ってもらったってことも記憶の奥になんとなくある程度。
「それは、紗千が母親と買い物に行った時に、欲しがったから母親が買い与えたものだったんだ。ネクタイピンで、紗千には関係のないものだって教えたらしいんだけど、まだ小さい紗千にはわからなかったみたいで。キラキラした感じがとても綺麗に見えたんだろうな」
「うん…。ほしいって騒いで困らせたのは覚えてる」
お母さん、困ってたもんな。


