「これ、もう必要ないかもしれませんが、お返しします。ずっと返せずにいてすみません」

「…いいの。私には必要ないものだから。貴方がもっていて」




お嬢様はそう言って受け取ってはくれなかった。
子ども心にはキラキラでいいものに見えても、大人になった彼女にとっては特別なものではなくなってしまったんだろう。


それから、幸子お嬢様とはよく話すようになった。
当時の面影はもうなくなっていたけれど、これほど上品に気品高く成長しているとは思わなかった。

当時の記憶ではもっと子どもっぽくやんちゃ気味ではしゃいでいる感じだったように思う。
記憶なんて曖昧な物だと思った。




「竜。もう私の事を昔の恩人として見るのはやめてほしいの。もう少し距離を縮めたい。だって、ずっと側にいるんだもの。堅苦しいのは息が詰まってしまうわ」



幸子お嬢様にそう言われてからは、表面上そう接するように努めた。
敬語もやめたし、フランクに話すように徹した。

そうすることを、彼女が求めていたから。
それでも、俺にとっては恩人で。
特別だと、感じながら。