それから数年後、俺は久住さんに頼み込んでKBGに入社することができた。
身体能力をあげるための訓練は死ぬほど過酷だった。


それでも、なぜだか辞めようとは思わず懸命に縋り付いていたのは、あの時の子どもの言葉があったからだと思う。
なぜそこまで俺の心を掴んだのか。
今でもよくわからない。

それでも確かに彼女は俺を救った。



入社してしばらくして、はじめて宇都木幸子お嬢様に会った時。
10年そこそこで雰囲気もすっかり変わるのだと思った。



「あの、お嬢様。これ覚えてますか?」




あの時、キラキラで綺麗だからと宝物なんだと言って特別にと俺にくれたネクタイピン。
俺はそんなものいらなかったけれど、半ば強引に押し付けられた。



「…これ?」

「はい。昔、お母様の葬儀の日に、俺にくれたものです。俺、あの時あなたのおかげで立ち直ることができたので」

「ああ…、そう。そうだったわね」