「少し、ここにいろ」

「え……」



しばらく人と話していた宇都木社長の側にいた私に、宇都木社長はそう言い残して私の返事も聞かずに行ってしまった。
ちょっと、一人で取り残すなんてひどくない!?

ボロが出ても知らないんだから!
娘を蔑ろにする父親だって悪評がついたって知らないんだから!




どうしよう。
不自然にならないようにそっと会場の隅に移動する。
誰に見られてもおかしくないように小さく微笑みながら。



竜。
お願い、早く戻ってきて。


心細さに心の中で叫ぶ。




トクン。トクン。
胸が騒ぎだす。



あれ…。
どうしたんだろう。



誰かに見られているわけじゃないはずなのに、誰かに見られているような。



どうしよう。
もし、もしここに、宇都木を狙う人が紛れ込んでいたら。


なにも食べちゃだめだ。
飲んでもダメ。
そう教えてもらった。


後は、あとはどうしたらいいの。