咲希の顔は見たくもないけど、会わなければ前に進まない。


スマホの電源をいれると、咲希からの着信。


本当に早いこと。


それだけ慌てているのだろうか。


「何で私の着信を無視するの。麻都佳が心配でしかたないのに。」


私の心配はしてない癖に。


咲希は私が嫌いなんでしょ。


思いきり怒鳴りたい気持ちを我慢した。


「分かった。そこへ行けばいいのね。」


咲希が指定した喫茶店に、必ず一人で来るように言われた。


智哉と真也が変装して私を尾行するらしいけど。


大丈夫かな。


顔がばれてるのに。


「大丈夫ですよ。他の何人かも尾行させますから、安心して出かけて下さい。」


砂川さんが言うなら大丈夫だと思う。


「自分勝手な行動はしないように。相手の罠にかかった振りをしてください。」


指定された喫茶店迄歩くことにした。


後ろばかりを見たいでと言われたから、ひたすら前を向いて歩く。


騙されてる事が分かっているのに、騙されなきゃいけないだなんて。


本当に情けないけど、今は我慢するしかない。


喫茶店の入口の席に咲希がいた。


咲希に久しぶりと言われて、頷くと後頭部を行きなり殴られる。


痛い!


なにするのと怒鳴りたいのを我慢して、気絶した振りをした。


私はこんなにか弱くありませんから。


今は敵地に乗り込むための我慢。


私を見失わないでよ。


この喫茶店の中には最初から、誰もいなかったようだった。