逃げたくても足が動かない。


男が直ぐ近くまで来ていた。


「腹が減った。食うものはないのか。」


食べるものならある。


母さんが作ったおにぎりが。


私が頷くと。


「早く持って来い。」


軽トラへ行って、おにぎりがを持って来る振りをして、このまま逃げよう。


慌てて軽トラまで走り、エンジンをかけようとすると、軽トラのドアが開く。


そして、その男が乗り込んで来た。


殺される。


「おい、逃げるつもりだっただろ。」


首を左右に振った。


「まぁ、いいから、食べる物をよこせ。」


おにぎりの入った風呂敷を男に渡した。


「全部食べていいから、おりて下さい。」


「嫌だね。お前も一緒に食え。」


「お腹空いてないので。」


その時、お腹が鳴る。


何で、こんなときに鳴るのよぉ。


遠慮せずに食えと、男がお握りを渡した。


手も洗ってないし。


大きなお握りを男は3個もたいらげる。


おかずも残さず食べた。


「もういいですよね。私も早く片付けて帰りたいので。」


「分かった。俺も片付けを手伝うから、お前の家に連れて行け。」


私の家に。


ないない、それはない。


無理無理、絶対無理。


公園の掃除に来て、男を拾って帰ったりしたら、両親が何を言うか分からない。


やっぱり、逃げよう。


その男性が深く被っている私の帽子を取り上げて、自分の頭に乗せた。


「この帽子はネーム入りなんだな。」


そうなのだ。


会社名と私の名前入り。


返して貰わないと不味い。


男はその帽子を被ったまま片づけだした。


帽子を奪いたくても185cmはあるだろう、その男から帽子を取ることが出来ない。


そんな事を考えてると、男が軽トラに切った木や、片づけたゴミを乗せていた。


「永島麻都佳さん、片づけ完了。」


完全に名前を覚えられてしまった。


逃げるに逃げれない状況。


このピンチをどうする。