智哉は心配ないと言った。


電話をかけると砂川さんの車のお迎えで、そのまま何処かへ向かう。


何処へ向かってるのか、教えなさい。


疲れるから無駄な抵抗は止めよう。


「バカに静かだな。」


「反論しないのか。」


本当に疲れた。


訳の分からないことが次々と起こって。


私を巻き込まないでほしい。


どうして、こんなことになってるのだろうか。


私は普通に20年間生きてきた。


短大を出た後は普通に会社に勤めて、そこで出会いがあって、恋愛もして、ごくごく普通の結婚をしたいと思っていたと言うのに。


それより何処へ向かっているのだろ。


着いた先に見覚えがたった。


ここは智哉の別荘だと思う。


昔、来たことがあった。


あの時も二人でだけでこの別荘に来たのだ。


住み慣れた町を離れると決まったとき、私はあの家に一人で残ると駄々をこねると、智哉がここに連れてきてくれて、又必ず会えると約束してくれたのを思い出した。


私の側にいつも智哉がいたんだ。


20才の大学生の智哉と10才の私。


18才の高校生の智哉と8才の私。


どう考えても不釣合。


智哉はどんな時も、私の事を一番に考えてくれた。


「俺が10才の時、麻都佳が生まれた。本当に可愛くて天使みたいで。その時、どんな時も俺が麻都佳を守ると決めた。」


「俺の初恋をなめるなよ。」


ええ。


それは引きます。


友達には笑われたらしい。


生まれたばかりの赤ちゃんに惚れるとか、初恋だとか、あり得ないとはっきり否定されたと言う。


それはそうだと思います。