「あたし、1度死んでるの」


小枝を拾いに行っていた香菜美が慌てて戻って来たかと思うと、そう言った。


俺と乃愛は咄嗟に反応できず、茫然として香菜美を見つめる。


香菜美の目には涙が浮かんでいて、こぼさないように必死で力を込めているのがわかった。


「どういう事……?」


乃愛がようやく口を開いた。


「みんなの記憶は改ざんされてる。だから思い出す事はないよ。だけど、信じて? あたしは1度、死んでるの」


香菜美の言葉が嘘だとしたら、そこにメリットなんてなにもないはずだ。


カケルの次に殺されるのが香菜美になるだけだ。


「あたし、ずっと幸弘が好きだった」


真っ直ぐにこちらを見てそう言った香菜美。


俺は一瞬ドクンッと心臓が脈打った。


真っ直ぐすぎるその瞳から、目が逸らせなくなる。


香菜美の気持ちは知っていたのに、こんな風に言われるとは思っていなかった。