「東條のため、とか言いながら、ほんとは逃げただけなんでしょ?」



「……っ」



「向こうの方が可愛かったから?
向こうの方が金持ちだから?

……それって、そんなに必要なこと?」




……あたしは、ただ。
東條を、困らせたくなかっただけ。


ただ、それだけ。




「それって、秋月が東條を好きな気持ちよりも大切なこと?」



「そ、れは……」




それでも、やっぱり考えちゃうよ。


東條は、社長の息子で。

可愛い許嫁だっていて。

親だって、その人を認めていて。



どんなに好きでいたって──……
入り込む隙間なんて、ない。

あそこまで言われて、それでも立ち向かう勇気はない。


何よりもあたしはまだまだ子供で。
無力な自分には何もできない。


好きでいるだけじゃ、全てを上手くいかせることなんて出来ないんだ。