話をしようと、口を開いても。

溢れるのは涙ばかりで、言いたい言葉は一言も出て来なくて。




『……蘭』



小さく、お母さんの声が響いた。




『一度、家に帰っておいで?
今からでも良いから、ね?』



「う、……ん」




お母さんは、何かに気付いたのだろうか。

優しい声で、それだけ言うと電話を切った。


通話を終えて、涙を拭う。


──……腫れてる。

鏡の前に立つと、目が腫れているのが嫌でも目に入る。


……やだ、な。

こんな姿、見せたくない。


見せたくない、けど。





「……っ」




堪え、られない。


東條の家を取るって、自分で身を引くって……そう、思ったのに。

考えて、そうしたのに。