「……はい、まあ」



曖昧に返事をして、そのまますぐに香乃華さんに背を向ける。

──顔、見れない。




ガチャッ……



「……はよ」



「おはようございます、泰臣さん」



ダイニングルームのドアが開き、欠伸をしながら入って来た東條に話しかける香乃華さん。



──朝。

いつも東條と一番最初に挨拶を交わしていたのは、あたし。


それなのに。




「ああ、……おはよ、香乃華」




もう、あたしじゃないんだ。

“一番”は、あたしじゃない。


仕方ないって、わかってるのに。

どうしようもないことだって、頭では理解しているのに。





「泰臣様、香乃華様。
食事の準備が出来ましたので、お席にどうぞ」



美椰さんがそう言って、二人を席に案内する。


途中、あたしの横を通った東條は、そっとあたしの手の平に何かを握らせた。