一旦彼らと別れ、クーデノムとマキセは宿へと戻った。
 パーティならそれなりの格好を、と準備のためだ。
 マキセも騒ぎのせいで後の試合に出られなかったため、試合放棄で2回戦敗退になってしまった。
 せっかくの登録料もマイナスだ。
 遊学として気軽な旅の途中のため軽装しか持っていない二人だったが、とりあえずは厚手の上等なマントを留め金でまとって出来あがり。
 そんな中、ひとり黙って考え込んでいるクーデノムにマキセが言葉をかける。
「どうしたんだ? 難しい顔をして」
「さっきの人…名前に覚えがあったので思い出してみたんですが……」
「え!? 誰か分かったのか?」
「リサニル大国の王弟、テニトラニス現国王ですね」
「王? 一般の観客席にいるもんなのか?」
「普通はいないでしょうけど」
「ま、例外もあるか」
 チラッとクーデノムを見る。
「北陸のリサニルからの輸入品は船の関係でテニトラニス経由になることか多いから、許可の印で目にする名前だ“コセラーナ=テニトラニス”」
「リサニルからの……酒か…?」
「リサニル産が一番美味しいんですよ」
 マキセの笑いにまじめに返す。
「じゃ、誘われた夕食は各国の王貴族が集まってるわけか」
「そうなってるだろうね」
「ま、これからの練習だと思えばいいんじゃないの?」
 乗り気でないクーデノムの表情を見ながら、意味有り気な笑みを口元浮かべたマキセ。
「社交は苦手なんですよ」
「仕事のかけひきは得意なのに?」
「……得意でもなんでもありませんよ」