それから1ヶ月後。
 船で海を渡り、テニトラニスの港に着くと、彼ら待っていたらしい男が近寄ってきた。
 クーデノムも何となく見覚えがあることから、クスイの国の者だろうが名前までは判らない。
「クーデノム様、王より書を預かっております」
と差し出し出されたのは妙に豪華な文箱。
 ただの連絡用の軽いモノではなく、正式な書である事を示している。
 クーデノムは受け取り、箱はマキセに持たせて中の手紙を開き見た。
 読み終わるまで数秒。
 沈黙の中、クーデノムが苦笑して呟いた。
「………やられた」
「どうした?」
「……先を越された、テニトラニス王に」
 マキセが書面を覗き見る。
「テニトラニスへの留学を許可っていうか、遊学のお世話をしたいと言ってきたから、世話になれ、と書いている」
 ルクウートで別れたテニトラニス王は、1ヶ月の間にクーデノムの意志より先にクスイ国王の許可を勝ち取ってきたワケだ。
 クーデノムが数日ではなく、長期に渡ってテニトラニスに滞在するように。
「ところで、マキセ?」
「なんだ?」
「何故、王がセーラ姫について詳しく知っているんだ?」
「え?」
「『ついでに気に入った姫がいるそうじゃないか、今王宮は改築中でな、王の広い住居が新しく出来るぞ』と」
「あはははははは……」
 笑ってごまかす手段に出たマキセに、クーデノムは諦めの溜息。
「裏切り者がこんな所に……」
「親友の父親の相談に乗っただけじゃないか。“今まで浮いた噂のひとつも聞かない息子だが、いい相手はおらんものか”と」
「それで遊学まで持ちかけたのか」
「そこまではしてないよ」
 きっぱりとソコは否定しながらも、いろいろと何か言っていたことは間違いないらしい。
「周囲には気にいるような者はいないだろうし、クーデノムが王になると知ってから近付く奴はロクなもんじゃなさそうだから」
「…………」
「でもほんと、セーラ姫は予想外のめっけもの」
「そんな一国の王女を特売品のように……」
「いやいや、クーの雰囲気に呑まれない、しっかりしたお嬢さんだと尊敬してるんですよ」
「どういう意味ですか?」
「それに、クーが早く落ちついてくれないと困るのだ」
「?」
「一部の女子の間で、俺たち2人の関係に萌えているらしいから」
「はぁ?!」
 話している二人の側で一台の馬車が止まった。