彼女が滞在していた屋敷が見える所まで来て、歩みを止めてクーデノムはセーラに向き合う。
「セーラ姫」
「あ、はい」
「今日はこれでお別れですが…また近いうちに、今度はテニトラニスでお会いしましょう」
「本当ですか!?」
「えぇ、各国を見て来いというのがクスイ国王の命令ですから、テニトラニスまで足を運ばせていただきます」
「楽しみに待ってます」
 ちょっと淋し気だったセーラの表情が明るい笑顔になったのを見て、クーデノムも満足気に笑った。
「クーデノム様」
 繋いだ手を勢いよく引っ張られ、少しかがんだ瞬間、頬に温かい彼女の唇を感じた。
「約束ですよ」
 耳元でささやかれた声。
 すぐ近くで合った蒼い瞳。
「…………」
 その時、屋敷から彼女を探しているのかキョロキョロと辺りを見渡すエイーナが目に映った。
 クーデノムとセーラの姿を見つけると中に何やら合図を送っている。
 意表をつかれ固まっていたクーデノムは何とか思考を取り戻しゆっくりと繋いでいた手を放した。
「ほら戻りなさい」
 優しく彼女を見送る。
 建物の前に一台の馬車が停車した。建物から現れたコセラーナはセーラと離れて佇むクーデノムに気付き、片腕を上げて挨拶を示し、クーデノムは頭を下げてそれに応えた。
 その隣には朱金の髪の女性。セーラとよく似た面差しからテニトラニスの王妃だろう。
 王妃という身分でありながら駆け寄ったセーラと共に軽く礼をしてきた姿にクーデノムは深々と頭を下げ…テニトラニスの王族に対して好印象を強く持った。
 彼らの乗った馬車が見えなくなった頃を見計らっていたのか、隣に佇む長身の青年。
「北陸まで足を延ばすのか。当分、帰れそうにないなぁ」
「……いつからいた?」
「俺の仕事はクーデノム様の護衛なもので」
 しれっと答える様子からセーラと会った辺りからずっと見られていたんだろうと思考し、…溜息をついた。
「勝手に決めて悪かったな」
「いや、面白そうじゃん。北陸もたぶん行くとは思っていたし」
「え?」
「リサニルに、名酒を買い付けに」
「あぁ…それもアリだな」
 そんな他愛のない話をしながら、後処理の残った仕事場へと戻っていった