コセラーナに送られて宿に戻ったクーデノムだが、マキセはまだ帰ってきていなかった。奴らの警備だの取り調べだのとまだつかまっているらしい。
 軽そうな印象を与える彼も、結構律儀な性格をしているのを知っている。
 クーデノムは大きく息を吐いてベッドに仰向けに寝転んだ。
 安宿のクッションの悪いベッドでも、重力に従って身体が引っ張られ沈み込む感覚。
「…疲れた」
 小さく呟き、意味もなく天井の木目を見つめる。
 自分のやりたいことが判らない。
 立場上、やるべきことは判っているのに。
『自由にしていいよ』
 その言葉の重さが双肩にのしかかる。
 判っているつもりでいた、頭の中では。
 しかしそれは机上の空論でしかなく、問題を目前にして迷っている。
 先の見えない未来はどうやって選ぶべきものなのか。
 幾度目かの溜息をついた時、廊下を歩く聞き慣れたリズムの足音が扉の前で一端止まり、コンコンと軽く叩かれて開いた。
「疲れた~」
と多少大袈裟に疲れた素振りを見せながら、そのまま空いているベッドに倒れ込む。
「あいつらやかましいのなんのって。ルクウートの奴に押しつけて帰ってきた」
 ひとしきり愚痴をこぼしてから転がっているクーデノムを見る。
「で、クーは何悩んでんの?」
「……自由な未来について」
「…それは哲学的ですね」
 もぞもぞとマキセが動く気配がして突然クーデノムのベッドがきしみ揺れた。
 マキセが座ったせいだ。
「クーはもっとわがままになっていいと思うよ」
「? 俺は結構わがままだと思うけど」
「人のためにすることはわがままとは言いません」
 断言され押し黙った。