油断ならない相手だと認めているだけに妙な緊張感が身体を支配する。沈黙を破ったのはコセラーナから。
「うちの姫が頼み事をしたらしいが、聞いて頂けるのかな?」
「! 貴方はお許しになるのですか!?」
「相手に不足はないと感じたからな。どうせなら私の手元に欲しいくらいだ。クスイ国の噂を聞いたぞ。現王の片腕と言われる若い文官がいるそうじゃないか」
 それは君だろうと含ませた言葉。
「……私はただの一文官ですが?」
「クスイ国王の代理と普通に話しているように見えたけど?」
「…………」
 どうやらハイニと話していたのを聞かれていたらしい。
 どこまでクスイ国の内情を知られているのか分からないので、黙秘でやり過ごす。
「今、テニトラニスは安定しているから、政略結婚なんてする必要はないからな」
 きっぱりと言いきる姿は王としてではなく、一人の父親としての表情だった。
 確かにリサニルとカルマキル、両陸の大国との親密な交流。
 今以上の他国との交流は娘を差し出し犠牲にしてまで築くほどのものでもない、と。
「……私はクスイの国を離れることが出来ないのですが……」
「いいよ」
 すんなり頷く。それは姫をクスイ国へと嫁がせてもいいという意思表示。
「別に今すぐ結婚とかいう話でもないし結論は待つよ。君は今、遊学中だろう? その途中にテニトラニスにでも立ち寄ってからでもいい」