「あの男たちが突然、わしを……!」
 被害者ぶった言動にムッと眉をひそめたクーデノムだったが、警備隊は彼らを捕らえる動きに迷いはない。
「お怪我はありませんか?」
 背後からかけられた声に振り向いたクーデノムはよく見知った相手を見て、納得した。
「ハイニ様」
「あちらの席から姿を拝見しましたので、警備隊を呼んで参りました」
と、クスイ国の文官長、クーデノムの上司がそこに立っていた。
 彼が視線で示した席とは、国賓席。クスイの国王代理として祭典に参加していたようだ。
「ありがとうございます。助かりました」
 丁寧に感謝の礼を言うと彼は穏やかな表情を見せて笑う。
「相変わらず、いい腕だな」
 落ちた3本のナイフを手に持ってマキセが歩み寄る。
「こんな特技があるとは、私も知りませんでしたよ」
 感嘆するハイニの言葉にクーデノムは苦笑した。
「人の目を盗んで、抜け出そうとする人物がおりましたので、いつの間にか身についてしまったんです」
 たいてい、投げてたのはペンでしたけどとの説明。
 その人物が誰なのかすぐに察したハイニは、長年側にいた尊むべき相手を思い浮かべ、笑った。
 ケラ=ノーサ達が警備隊に連れて行かれ、騒ぎが収まる中、遠巻きに見ている者の中に彼女の姿を見つけて、クーデノムはほっと安堵の息をもらした。
 今回は巻き込まずに済んだらしい。
 そして、そう思った自分に少し驚きを感じた。
 彼女の無事を確認するまで落ち着かなかった自身の心に。
「クーデノム様、大丈夫でしたか?」
 自分の姿を見て走り寄って来る彼女に自然と浮かぶ笑顔。
 真っすぐな蒼い瞳を向けられて、クーデノムは胸中で苦笑した。
「仕方ない…認めてしまおう」
 小さく呟いた言葉を側にいたマキセが聞き留めて、クスリと笑った