構えた剣を先に振り上げたのは男達のほう。
 ケラ=ノーサが一歩、後ろに下がるとマキセに向かって二人が襲いかかってきた。
 しかし彼は剣の太刀筋を見切ってひとつを避け、一方を剣で受け止め撥ね返して退ける。その攻防で見た目にも剣術の腕の差は歴然。
 武器をチラつかせ、怯える者くらいしか今まで相手にして来なかったのだろう。
 男達もマキセが剣術の試合で、大男を相手に勝利を収めたのを今更のように思い出し表情を改める。そしてそんな彼らが標的にするのは、目前の強者より明らかに力は劣るであろうもう一人の人物。
 要はケラ=ノーサが逃げる時間稼ぎをすれば、彼らはいいのだ。
 視線の動きで真意を見抜いたマキセは、一瞬振り向いてクーデノムを覗う。
 それを隙に思った男達は足止め用にマキセへ、そしてクーデノムへと刃を向けた。
 しかし、横をすり抜けようとした男の足をマキセは引っ掛けてバランスを崩しておいてから、向かってきた男の剣を高らかな金属音と共に受け止め、力で押してくる刃をスラリと流す。
 男の横に素早く移動したマキセは、男が切り返してくるよりも早く、剣の柄で後頭部下を突き、昏倒させた。倒れた男を地へ転がしたままマキセはクーデノムへと振り向いた。
 一方、マキセに足をかけられバランスを崩した男はそのまま勢いと共にクーデノムに突っ込んでいく。
 しかし、素手だと思っていた相手の手にはいつの間にか柄の長い数本のナイフ。
 クーデノムが腕を振った次の瞬間には、男の剣を持った腕から血が吹き出した。
 剣を落とし、痛みで戦意を失ったらしい相手から視線を外して、人込みに紛れようとしている中年男・ケラ=ノーサをクーデノムは見つけた。
「待ちなさい」
 鋭い声と共に放ったナイフは2本。
 一本は庇った部下の肩に刺さり、もう一本は驚きで尻餅をついたケラ=ノーサの太ももへ深く傷を付けた。
「うわぁ」
と、派手に痛みを訴える声を上げた彼に寄ってきたのは、ようやく騒ぎに駆けつけて来たルクウートの警備隊だった。