数年前にクスイ国の王都で起こった事件。
 クーデノムが城下の町役場から王宮の文官へと職場を移した頃の出来事。
 最近、組織的に賭けをふっかけてはトラブルを起している者たちがいるとの訴えを耳にしたクーデノムは、町に出たついでにと彼らが多く出没するという酒場へ足を運んだ。
 そこは宿も兼ねた一般の酒場。
 各国からクスイに遊びに来た者たちも多く利用している場所だ。いわゆる、賭け事の好きな者が集まっている場所。
 各々、テーブルに座った者たちが酒を飲み交わしながらカードやコインやらで簡単な小さな遊びを繰り返し行っている。
 クーデノムも空いている席に座ると酒は…仕事上マズかろうと果汁水を注文した。
 皆、楽しそうに遊びに興じている。
 そう簡単には相手も現れないだろうと適当に周囲のゲームを見学して暇を潰していたクーデノムだったが、突然、背後に座っていた男が騒ぎ出した。
「詐欺だ!」
と。
 クスイでは賭け事のイカサマや詐欺は御法度。
 罪も重く高額な罰金や禁固刑、国外追放など言い渡されることもしばしば。
「何だと!?」
 叫んだ若者に詰め寄るのは屈強そうな男3人。
 有無を言わさず無言の圧力で黙らせようとした男達の前に現れたのが、当時まだ一般市民のマキセだった。
 宿主の依頼を受けての用心棒といった立場だった彼は、邪魔するなと襲い来る男3人を相手に応戦。腰に下げた剣も抜かずにあっという間に男達を床に転がした。
 食堂内にいた見張り役だっただろう彼らの仲間らしき者が慌てて外へ逃げ出そうとしたが、戸口寸前で鼻先を掠めたモノに驚いて立ち止まり、後方の者は気付かず勢いよくぶつかりまとめて倒れこんだ。
 その男たちに気付いた周囲の客が彼らを縛りあげ、騒ぎにやって来た警備隊に引き渡された。
 壁に彼らの足止めに使われたナイフが一本。
「コレ、あんたのだろ?」
 マキセが壁から抜いた一本のナイフを事務的な処理をしていたクーデノムに渡しに来たのが、二人の初めての会話だった。
 捕らえた者の証言で組織の主犯格も逮捕され、詐欺グループを一掃することが出来た事件で、その主犯格だったのが目前に居る男・ケラ=ノーサだったのだ。