翌日。
 ルクウートの剣術の祭典は一番の山場を迎える。
 先日の予選を勝ち抜いた強者の剣術試合の本戦が夕方から催されるからだ。
 今は闘技場ではその前技としてルクウートの剣術生による試合が行なわれ、まだ満席ではないが大勢の人が集まっている。
 各国の来賓席から少し離れた場所でクーデノムとマキセは見学をしていた。
 コセラーナに来賓席に来ないかと誘われたのだが、丁重にお断りをした。
 さすがに昨夜の宴のようにざわついた場所ではない所で、由緒ある王族に囲まれて試合を見る気にはなれない。誘われなくても行ける立場であるから余計に気が引ける。
 それにクスイからも国王代理として誰かが来ているだろう。
「あれ?」
「どうした?」
 隣で呟いたマキセの声に反応したクーデノムは、彼の視線を追った。
 そこには一人の男。
「昨日の奴等の仲間だったよな…警備隊から逃げ切ったのかな」
 なんとなく見覚えがあった男が気になって、キョロキョロと人を探しているかのような行動を見続ける。
 そこに数人の男を従えた恰幅のいい中年男がやってくると、男は慌てたように走りより何度も頭を下げた。
「ボスか?」
「ボスだな」
 二人はその男を眺めた。暫くすると案内されるようにして男達が近づいてくる。
 また昨日の続きでもやろうと言うのか、とうんざりした表情をしたのだが、 
「あれ? あんた何か覚えあるねぇ…」
 マキセが近づいて来た中年男の顔を眺めて言うと、
「10秒、待ってあげましょう」
と、クーデノムがマキセでなく相手に言い放つ。
 そして、指折り数えだした。
「何のつもりだ、お前ら」
 突然の言葉に太った中年男が威嚇するように吠え、男たちが殺気立つ。
 周囲の者は何事かと距離をとって下がり、それでも事の行く末を興味深く見守っている。
 マキセも警戒するように剣の柄を握った。
「5、6、7」
 睨み合いの中、クーデノムの数える声だけが両者の耳に届く。
 そして、
「……9、10。マキセ…捕獲」
「……了解」
 クーデノムの言葉でマキセが勝気な笑みを浮かべて一歩前に出る。
 まだ思い出せずにいるらしい男に、書類を朗読するような事務的な口調でクーデノムが宣する。
「“ケラ=ノーサ。国外追放の刑。今後、国内外問わず、悪質な賭博を催した場合、直ちに捕らえ禁固十年以上の刑に処す”でしたよね」
「貴様ら、あの時の……」
「よって、身柄を拘束させて戴きます」