王の突飛な命令から自国のクスイ国を出発したのが1ヶ月程前。
 王宮の文官であるクーデノム=ガディと彼の親友である武官の近衛士、マキセ=トランタは、剣術の国ルクウートに来ていた。
 ルクウートでは年に一度、剣術の祭典が催される。そのメインイベントが世界中から集まってくる強者が参加する剣術試合。
 別に決められた行き先などないに等しい旅。時期が合うなら見物しようと足を運んでやって来たのだ。
 王都の会場近くは多くの者でにぎわっている。
 各国からの見物客と参加者、それを見越しての多くの露店が立ち並び行き交う人々の表情も明るい。
 試合は誰でも登録料を払えば参加できるらしく、勝てば賞金も付くという。
「マキセ、出場してみれば?」
「どうしようかなぁ…」
「俺の護衛ばかりじゃ、腕も鈍るでしょ。狙われることはないからね」
「いえいえ、影からいつも狙われてますよ」
「俺を鬱陶しく思ってる者にか?」
「いや、かわいい女の子たちに」
「口先ばかり上達してるな、お前は」
 せっかく来たんだと登録を済ませ、選手席へと向かうマキセと別れ、クーデノムはひとり、一般の観客席に陣取った。
 明日が決勝で今日はまだ予選のようなものなので、まだ思ったほど観客も会場を埋め尽くしていない。
 比較的空いている席に座り、のんびりと見物体勢。
 それでも勝負が決まればそれなりに歓声は上がっている。
「お兄さん、こんな所で一人で見物かい?」
 背後から突然声をかけられて振り向いた。