【第1話】


「あ!来たよ来たよ!」
「今日もかっこいいなぁ」

風が舞う5月。
女子特有の1オクターブ高い声が廊下から聞こえてくる。イヤホンをしている私にも聞こえてくるほど、女子の声は特有だ。

・・・もうちょい静かにしてよ。
窓側の席にしてもらった意味なかったな・・・。

そんな毒舌を吐いてるのは私。
イヤホンを外しながら廊下の女子を遠目で見た。
鈴 奏。珍しい名前だけど、読みは
『すず かなで』

親が音楽家で、こんな変な名前がついたの。
私は意外と気に入ってるけどね。

あ、さっきから廊下にいる女子達ね。
ある男子が『とってもかっこいい』から少し興奮しているんだ。
どこの学校にも、1人はいる。皆から1目置かれる存在。

ほら!今 教室に入ってきた人。
足がスラッと長くて、顔が美形。
とってもかっこいい・・・らしい。

一ノ瀬 宇宙(いちのせ そら)くん。まんがとかでよくある、『王子様』ってやつ。

「今日も王子様はカッコイイですねぇ~」
私の前の席なんだけど、なぜか勝手に私の机の上のノートを自分のノートに移しながらボヤいているのは、親友の楠 万輝(くすのき つむぎ)。
つむぎは今日、授業で当たるらしく、私の課題を勝手に写している。

「つむぎ!早く課題写しちゃってよ!」

つむぎはミーハーだ。どんな男子もかっこいいらしい。
いいのか悪いのか知らないけど、私の課題を早く移してほしい。

「はいはい!もーかなのせっかち~」
つむぎが口をとんがらせて言った。

「・・・みんな王子様、王子様って」
私はうるさい女子の原因を恨んだ。

「かなは好きなやついないの?」
つむぎがまた、手を止めて私に聞いてきた。
「・・・いないよ!ほら、早くノート返して!」