揺れ動く電車の中。ふと窓を見ると、ぽつぽつと小さな雨粒がはりつきはじめた。いつもの味気ない窓が、雨粒のおかげで少しはマシになっている気がする。


だけど、そんなことを気に留める人はいなくてみんな小さな画面片手に下を向く。


今日は午後から本降りになるらしい。
あぁ、だからいつもより人が多いんだ。


人の熱気であふれかえる電車の中ほど、苦手なものはない。…早くつかないかなぁ。


『次は、戸倉学園前、戸倉学園前』


プシュー ガタンッ


無機質な車内アナウンスの案内で、電車の扉が開いた。ホームに沢山の人が流れ込む。そのほとんどが、戸倉学園の学生。私もそのうちの1人だ。


雨がさっきよりも強くなってきたから、傘を開いた。そして周りを見渡せば、仲睦まじく相合傘をしている生徒や楽しそうに男女で登校する生徒がいた。


そんな生徒を横目に1人でするすると通学路を足早に歩く。


「はぁ、もぅ…」


戸倉学園2年生、瀬川 智和 (せがわ ともか)。ここに入学してから1年が経つが、色恋沙汰は全くなく華の高校生としてはつまらない生活を送っている。
…そういうのって自分ではあんまり言いたくないんだけどね。私だって、恋をしたい。


だけど、そもそも私には恋愛経験がない。胸のトキメキや、甘酸っぱい思いもしたことがなくて今は恋に恋してる状態。


朝から幸せそうな彼女達をみて、更には私の大嫌いな雨だなんて…憂鬱すぎるよ。




学校に着いても、なにかが変わるわけでもない。私の学園生活なんて平々凡々と言ったところだ。もちろん、仲のいい友達だっているしそれなりには楽しい。

「おはよー、智和。」

「おはよ、千佳(ちか)。」

教室に入ってあいさつをしてくれたのは、私の友人の桃園 千佳(ももぞの ちか)。
彼女は、学園生活を程々に楽しんでいる。

「ねぇ、きいてきいて!今日の朝ね、先輩あいさつしてくれたんだぁ♪」

「わぁ、千佳よかったじゃん!」

「もう朝からテンションMAXだよ!!」

そう言って、満面の笑みをうかべる。千佳の言う先輩とは、サッカー部に所属している浅野 翔(あさの しょう)先輩の事。

嬉しそうに話してくれる千佳の姿を見ていると、学園生活を【片思い】というカテゴリーで楽しんでいて、ちょっとだけ羨ましくなったりする…

「千佳、頑張ってね」

「うん! あ、でも智和も頑張らなきゃ。いい人みつかるといいね。」

「そうだね、まずはいい出会いがないのかなぁ…なんてね。今はまだ いい、かな?」

素直に頷けば良かったのに、見栄を張ってしまった。あーあ、私のバカ…

「そっかぁ、まぁきっと見つかるよ!だって智和可愛いもん。こんな可愛い子、男が放っておく訳ないじゃん?」

智和が恋したら、あたし絶対応援するからねっ!

少しいたずらっ子のような顔をして、千佳は席についた。
雨は、降り続いたままだ。