彼女が、草履を諦め階段をそのままの状態で駆け下りてしまった時は、ア然とその背を見送ってしまった。
嘘だろ…
優里亜、お前は俺の知っているお嬢様達とは違う考えの女らしい。
いや、最初に会ったあの瞬間から、どこか違うと思っていた。
だから、珍しく自分から声をかけてしまっていたというのに、迂闊だった。
清楚なお嬢様の皮を被った肉食女達と違い、上等の餌(御曹司)達に見向きもしないで本物の肉にしか興味を持たない肉食だと笑い、興味を持った彼女の行動パターンが読めないと思いながら、彼女とのキスに夢中になり冷静な自分はどこかに行っていたなんて、間抜けすぎて笑える。
俺を振り回し翻弄する女
そんな女には、もう出会えないだろう。
今は、逃してやる。
だが、今度見つけた時は逃しはしない。
「もう、追いかけなくていい」
「ちょうど、見失ったところですが、探せば近くにいるかもしれません。よろしいのですか?」
「あぁ、構わない。マンションに向かってくれ」
「かしこまりました」
俺は、胸ポケットからスマホを出し秘書に電話かけ、向こうの返事も待たずに用件を伝える。
「加藤 優里亜を調べてくれ」
と、だけ…