知りたくもありません。


と、言えたらどんなに楽だろう。


優里亜だって、きっとそう言うだろうと想像できるのに、慎重にならざる得ない。


身代わりで来ている以上は、滅多な事を言えないと言葉を噤むことにした。


それを彼は、私も同じ気持ちでいると勝手に思ったらしく、重ねていた手の甲にキスを落とし微笑んだ。


「僕の側から離れないでくださいね」


私もやはり女なのだ。
彼の仕草にポッと頬が染まり、茹だったように体が熱くなるが、すぐに鋭く刺さる女性達の視線に気がついて背筋がゾッとする。


私はあなた達の敵じゃありませんと叫びたい。


ただの身代わりアルバイトでここにいるだけですと言えたら、上品なお嬢様達から敵視されることもないだろう。


受付を済ませたら、目立たないように隅で豪華な食事を堪能して帰るので怒らないでくださいと心の奥底で呟いた。


会場の広間の入り口横に設置された受付に着くと、係の人がにこやかに彼に挨拶をした。


「麻生様、ようこそおいでくださいました。素敵な女性を既に見つけられたんですね。失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「…君の名前は?」


逃げられないと腹をくくり、笑顔で答えた。


「加藤 優里亜です」