体育祭が段々と近づき、美陽は陸上部の手伝いも行けなくなっていた。
陸上部も陸上部で、大会やら体育祭に追われていた。
美陽と束李の会話は苦労話が増えた。

「それで、部活対抗リレー選ばれちゃって…。体育祭は走って終わるかも~!」

美陽は束李の話にクスクスと笑った。

「頑張って束李。無理しない程度に走り抜いてね!私は、束李の走りを見るのが楽しみなんだから」

束李はふと足を止めて、束李を抜いた美陽は振り返った。
束李は疑問を美陽にぶつける。

「美陽は私の走りの何が好きなの?」

束李のふとした疑問だった。
美陽は窓際に移動して、空を見上げた。

「束李は走ることが『大好き』って『楽しい』って気持ちが走ってるときの体全体で伝えて来るんだ。『自分は自由だー!』って叫んでるように聞こえる時もあって…。私は束李のそういうところに憧れて大好きになった」

美陽は束李の方を真っすぐに見て笑った。
美陽は話を続ける。

「鳥が空を自由に飛ぶように、束李も自由に走ってるから私もそこに行きたいって夢を見るの。私も行きたい、飛びたい、走りたいって!束李の走りはいつも私を前向きにしてくれる」

美陽の言葉はまるで束李に恋をしているようなそんな言葉に思えた。
束李は俯いて思いっきり美陽に抱き着いた。
美陽は少しよろめいたが、何とか束李を支えた。
束李の肩は少し震えていて美陽が肩に触れようとした途端、束李は顔を上げて涙を流した顔で美陽を真っすぐに見た。
そして美陽の目をまっすぐに見つめていった。

「私は…っ、美陽がいつも応援してくれるからっ…支えてくれているから前を向いて走ることができるんだよっ!」

束李はまた美陽に抱き着いた。
さっきより腕に力を入れて。
そして美陽の耳元で言った。

「私、美陽のために走るよ!走り続けて、走り抜いて見せる!…だから、私の走り見ててねっ…!」

美陽は嬉しそうに「うん」と頷いた。
束李にハンカチを差し出し、束李の手を引いて歩いた。
次の日、体育祭まで一週間。
束李と龍月は陸上部でお昼休みを使って練習。
屋上には、悠琉と美陽の2人きり。
美陽と悠琉の間には人1人分の間が空いていた。
美陽も悠琉も緊張で何も喋れなくなっていた。

「あ、あの!準備は順調ですか」

先に口を開いたのは悠琉だった。
少し片言で緊張しているのがすぐに分かる。

「は、はい。順調です…プッ」

美陽が突然笑った。
悠琉は驚いて美陽を見る。

「ふふふ、何に緊張しているんですかね私達…っ」

美陽は肩を震わせながら笑った。
それにつられたように悠琉も笑った。

「本当だね、可笑しいや!あ、お弁当食べよ」

美陽は「はい」と返事をしてお弁当を広げた。
美陽がお弁当を食べてるとき、悠琉が手を止めて話し始めた。

「あの時、次沢さんが言った言葉…あの後考えたんだ」

美陽が言った言葉、それは…、
『勝谷先輩は、前向きじゃないんですね。高校最後なのに…』
『先輩方に全力で楽しんで欲しいんです』と、悠琉に言った言葉。

美陽が謝ろうとするのを、悠琉が遮った。

「本当にその通りだなって、クラスで出場競技決めたんだ。その時に思い出してね?自分から出たい競技に名前書いたんだ。そしたらクラスメイトもびっくりしててさ」

美陽は開いた口を閉じて悠琉の話を聞いた。

「その瞬間、クラス全体が一体になった気がしたんだ。今も前とモチベーションは違ってて、体育祭が今では楽しみになってる。だから、ありがとう次沢さん」

悠琉が美陽の方を見ると、美陽はものすごく嬉しそうに笑った。

「先輩のモチベーションが上がって良かったです。私も、楽しみになってきました」

美陽は止まらない笑い声を抑えるように、口元を両手で覆った。
悠琉は笑う美陽を横に、不自然にならないよう声を出した。

「あの、次沢さん…連絡先交換しない?」

悠琉は美陽に携帯を見せるように持った。

「はい、お願いします!」

お互いの連絡先を登録して2人は楽しそうにお昼休みを過ごした。
教室で束李に注意されるまで、美陽はずっと携帯を手に握っていた。