「一昨日の夜は本当にすまなかった。腕の傷は大丈夫か?ずいぶん大きく切れているんじゃないか?」

「傷は手当てしましたから大丈夫です。・・・一昨日の夜のことはもういいです。少し驚いただけですから」

「もういいって態度じゃないように見えるけど?」

修一郎さんはソファーの定位置に座り私を見つめた。

「いえ、自分の立場を再認識しただけです。今までが修一郎さんに甘えすぎていました」

私の言葉に修一郎さんはふうっと息を吐いて目を細める。

「ここに来て本来の『安堂ノエル』に戻ったのかなと思ったらまた『桐島絵瑠』に逆戻りか」

安堂ノエルから桐島絵瑠って…。

「まぁそれは俺のせいだけどな」

修一郎さんは私を真っ直ぐ見つめてきた。その視線が強くて思わず目をそらす。
私が悪いことをしたわけじゃないのに、なぜか悪いことをしたような気分になるのはなぜだろう。

「ノエル、しっかり俺を見て」

叱られているような居心地の悪さを感じて唇をかみしめて修一郎さんを見つめた。
そんな私に修一郎さんはふうっと息を吐いた。

「ごめん、ノエルを責めてるわけじゃない。ただあまりにノエルの態度が硬くなったから、ちょっと腹が立ったんだ」

腹が立った?私の態度が悪いってこと?
何も言い返すことができずにじっと修一郎さんを見つめたままでいると「ごめん」とまた修一郎さんが口を開いた。

「まず、一昨日の事、きちんとノエルに謝る。そして説明もさせてくれ」

「もう・・」
「黙って聞いて」

「俺は真人に君が真人を助けた恩人だって言ってなかったんだ。真人はずっと自分を助けてくれた女性を探していたのを知っていたのに。ノエルと婚約した後もずっと黙っていた。真人が海外に行っていたり忙しくしていたことを言い訳にしてた」

「・・・私も真人さんに知られることを望んでいなかったし」

「でも、真人はずっと気にしていた。真人にとってノエルは命の恩人だから」

「そんなたいしたことはしてませんよ」