修一郎さんは私との同居を解消する気がないようで驚いた。

婚約解消を発表するわけじゃない。同居を解消するだけ。
私の存在は修一郎さんのプライベートの生活を邪魔するもので、彼女とのお付き合いの大きな障害なのに。
そんなに会社が大事なんだろうか。
私と不仲が噂されるくらいじゃ株価は変わらないと思うけど。

「ノエル、何か誤解してるみたいだけど、昨日の女とは何でもない。俺は彼女と付き合ってるわけじゃない。俺はあいつに何の感情もないんだ」

修一郎さんのその言葉に私はまた凍り付き目の前が真っ暗になった。
何の感情もなくキスをするのか。



私は同じような言葉を別の男性の口から10年前にも聞いたことがある。

『エル、なんか誤解してるみたいだから言うけどな。キスもそれ以上だって他の女とするけど、だからってその女と愛し合ってるわけじゃないし、本気で付き合ってるってわけじゃないから』



苦い思い出がよみがえってきて気分が悪い。
やっぱり、この世界はこんな人たちの集まり。
修一郎さんは違うって思っていたけど、そうじゃなかったみたい。
気持ちがなくてもキスができるんだな。もしかしたらそれ以上も。

私とのキスもそういうことか。
気持ちがあったのは私だけ。

どうやら10年経っても私は成長していないらしい。
私のファーストキスの相手と修一郎さんは同じ種類のヒトだった。
私は10年振りの恋だったけど、どうやら相手を間違えてしまったらしい。
私は心を殻に包んで二重ロックをかけた。。



「お義兄さん、私は実家じゃなくて修一郎さんのマンションに戻った方がいいのでしょうか?」

修一郎さんの言葉には触れず、お義兄さんに向き直った。

お義兄さんは修一郎さんの顔をちらっと見て困った顔をしたけど、私に答えてくれる。

「ノエルちゃんの安全を最優先するストーカー対策としても、企業戦略としてもその方がいいと思うよ」

「わかりました。では修一郎さんの部屋に戻ります」

修一郎さんの前に出て硬い表情のまま頭を下げた。

「修一郎さん、もうしばらくお世話になります。よろしくお願いします」