「・・・ノエル、俺たちのマンションに戻ってくるよな?」

その言葉に私は身体を固くした。

黙っているとお義兄さんが私に向かって話し始めた。

「ノエルちゃん。いくら企業間の業務提携がうまくいってるって言っても、婚約発表して4ヶ月やそこらで婚約破棄の発表はできないよ。どちらの会社の評判に傷がつくし社員たちも仕事がやりずらくなる。周囲から見たら政略結婚なんだからね。それが破棄されると知ったら他の企業だって黙ってない。どこの会社も隙あらば自分のところと契約をって狙ってるところばかりなんだからね」

修一郎さんは息をのんだ。
「婚約破棄?!」

私は修一郎さんの方を見ないようにお義兄さんを振り返った。

「そうか、そうですよね。私の考えが浅すぎました。わかりました。今はまだ婚約破棄の発表はしません。最適な時期が来たら教えて下さい」

スッと頭を下げた。

「最適な時期ね。わかったよ」

お義兄さんはかすかに笑った。

愛理さんは泣き出しそうな表情をしていて、それを見た私の心はずきんと痛んだ。

「ノエルちゃん、本気で言ってる?」

私は黙って頷いた。

「・・・だから修一郎さんはもう少しの間女性と公にお付き合いをするのを控えてもらえると助かります。申し訳ないですけど目立たないようにお付き合いしてもらえませんか?」

「ノエル!」

「スマホだけは取りに行きます。・・・私はケイのマンションに戻ります。あっちから仕事には行きますからご心配なく」

私は修一郎さんの顔を見ないようにして頭を下げた。

「何言ってるんだ、そんなの許すはずないだろ。ノエルは俺と一緒に暮らすんだ。圭介君のところには帰せない」

「じゃあ実家に」

「ノエル。ダメだって言ってるじゃないか」