意を決して洗面所から出て、さっきまでいたダイニングに向かった。

そっと覗くとそこにはイライラしたような修一郎さんがいてスマホを操作している姿が。
愛理さんはかんかんに怒っていて「こんなバカ男のところにノエルちゃんは戻さない」と言っている。

私の姿に気が付いたお義兄さんが廊下に出て来て声を潜める。

「修一郎くんね、昨夜の途中から記憶がないらしいんだ。でもこのままじゃうちの奥様が納得するはずがないし。」
と苦笑した。

「今あちこちに電話させて確認してるからさ。ちょっとリビングに行こうか」

お義兄さんに促されてリビングのソファに座る。

私が口を開く前にお義兄さんが話し始めた。

「僕って割と洞察力があるんだよね」
優しい表情で私に語りかける。

次に続く言葉がわからなくてお義兄さんの顔をじっと見た。

「ノエルちゃん、そろそろ修一郎君から離れようと思ってるでしょ?」

ちょっと驚いた。

「はい」
私は視線を下げた。

「どうして?」

「私達の婚約は広く伝わっていると思うので、もう無理に一緒に暮らす必要はないかなと思います。このまま修一郎さんの部屋でお世話になるのは心苦しくて。実家かケイのマンションからIHARAに通勤してもいいかなって。それよりももう婚約自体を無かったことにしてもいいんじゃないかと思っています」

「まだノエルちゃんの問題は何も解決していないように思うんだけど?」

「わかっています。でも、ストーカーが私のことを諦めた可能性もあります。動きは全くないし、実家かケイのところに戻って様子を見てもいいんじゃないかと思います」

「ふぅん。まぁストーカー問題に関しては確かに動きはないよね。でも、婚約破棄はまだ早いんじゃないかな」

「IHARAとANDOの業務提携の話は婚約破棄をしてももう問題ないですよね?」