「そろそろだと思うのよね」

2杯目のホットミルクを飲んでいると、愛理さんが時計を見た。それと同時に玄関のチャイムが鳴る。

「ノエルちゃんは待っててね」と言うと愛理さんが玄関に向かった。

何か話し声が聞こえたと思ったら、急にバタバタと足音が聞こえてきてダイニングのドアが大きく開いた。

「ノエル!」

大きな声に驚いて顔を上げるとそこには修一郎さんがいた。

顔色は悪く、髪も乱れている。
うっすらとひげも生えている?
それに昨夜着ていたワイシャツ姿。佐々木さんが外したのかさすがにネクタイはしていなかったけれど。
あのまま朝まで寝て、寝起きでここに来たのだろう。

昨夜の女性といる修一郎さんの姿を思い出して、思わず顔をそむける。

「ノエル、ごめん、悪かった。こっちを向いてくれ」

修一郎さんは私に近付いて顔をそむける私の腕を握った。

「痛っ!」

思わず悲鳴をあげた。
修一郎さんが握ったのはまだ手当をしていない私の傷口だった。

私の悲鳴に反射的に身を引いた修一郎さん。
愛理さんは「何してるのよ!」と大きな声を出して修一郎さんと私の間に身体を入れた。

「先に手当てをしてらっしゃい」といつの間にか届けられた手当ての材料の入った紙袋を渡された。
それを受け取って修一郎さんの視線を避けて洗面所に駆け込んだ。

「あ、ノエル、待って」

修一郎さんの声が聞こえたけれど、聞こえないふりをして洗面所のドアを閉めた。

はあっと大きな息を吐く。

紙袋の中身で傷の手当てをして、また大きく深呼吸をした。
逃げ出すことはできない。洗面所を出て修一郎さんと話をしないといけないことはわかっている。
どうにも気が重い。

修一郎さんがさっき言った『ごめん、悪かった』って何に対する謝罪なんだろう。

自分に彼女がいることを私に秘密にしていたこと?
仮だけど世間的には婚約者と一緒に住む部屋に女性を連れて帰ってきたこと?