ホットミルクのカップを両手で包み込むようにして飲んでいると、ゆるゆるの部屋着の袖から出た私の腕をハッとしたように見つめる愛理さんの視線に気が付いた。

「ノエルちゃん、それ」

テーブルの向こう側から愛理さんの腕が伸びてきて私の右腕を軽くつかむ。

「あの女にやられたの?」

「え?」

愛理さんに示されたところは前腕の内側で7センチほどの長い切り傷があり、傷に沿って赤く腫れていた。
切れた時に出血をしたらしく血液のにじんだ跡がついている。

「あ、そういえば何だかひりひりすると思いました。切れてたんですね。ごめんなさい。もしかしたらシーツを汚してしまったかもしれません」

こんな傷に気が付かないなんて、昨夜の私はどれだけ動揺していたんだろう。


「ノエルちゃん、気にするとこが違うわ。シーツなんてどうでもいいの。それより、傷跡が残ったら大変よ。治療しなくちゃ。お医者さんに行きましょう」

立ち上がろうとする愛理さんを慌てて本気で止めた。

「愛理さん、こんな切り傷で受診する必要なんてありませんよ!大丈夫ですから」

「でも、傷跡になったら・・・」

「しばらくは傷跡が残るかもしれなせんけど、そのうち薄くなって消えますから大丈夫です。それに、もし消えなくても私は気にしませんから。顔じゃないしそんなことなんでもありませんよ。ナースなんですから自分で手当てします」

「ノエルちゃん・・・わかった。お医者さんには行かなくてもいいけど、しっかり手当はしてね。何が必要なの?」

愛理さんは渋々ながらも納得してくれて、私は改めて傷口を確認した。

彼女のネイルが思ったよりも深く抉るように私の皮膚に入ったらしい。
洗面所で洗い流すと傷口からは浸出液が出てきていた。

愛理さんに手当てに必要な物を伝えるとマンションのコンシェルジュがすぐに準備してくれるという。

すごいな、高級マンションって・・・と密かに感動する。