愛理さんの大きな声と頬の痛みで修一郎さんは目を開けた。
でも、その焦点は合わない。

トロンとして眼でゆっくりと周りを見まわしている。
連れ帰ってきた彼女の姿を探しているのか、今の状況がわからないのか。

そんな様子を見た愛理さんがキッチンに向かったと思ったらミネラルウォーターのボトルを持ってすぐに戻って来た。

「飲みなさい」

修一郎さんはまた目を閉じようとしている。
無理やりボトルを口元に付けると修一郎さんもごくごくと飲み込むけれどまた目を閉じてしまった。

「修一郎、起きなさい!」

愛理さんが叱っても泥酔状態の修一郎さんには届かない。

私は二人の様子をぼーっと見つめているだけだった。

愛理さんのスマホが震え、すぐに玄関のチャイムが鳴った。愛理さんがすぐにドアを開ける。

「愛理」
入ってきたのはお義兄さんだった。

「守さん、このバカ野郎を奥に運ぶのを手伝って」

愛理さんがそう言うと、お義兄さんは眠り込んだ修一郎さんを見下ろして苦笑した。

「了解。これはまたかなり飲んだみたいだね」

「飲んだだけじゃないみたいよ」

愛理さんの怒りを含んだ低い声にお義兄さんもビクッとした。

「とにかく寝室に連れて行くよ」

愛理さんが靴を脱がして、お義兄さんは立ち上がることが出来ない様子の修一郎さんの両脇に手を差し込んで寝室に連れて行った。

私が手伝おうとすると、愛理さんに止められた。

「ノエルちゃんは触っちゃだめ。こんなバカ野郎の世話なんてしなくていいから」