「あ、ああごめん。いいんだ。お休み」

私の腕を離してまたグラスに口をつける修一郎さん。

いつもと違う私たちの空気感。
それは明日の集まりのせいなんだろうか。

歯磨きをしてリビングに戻ると修一郎さんはいなかった。
彼の寝室で小さな話し声がする。

電話か…。

テーブルに置いたままのビールの空き缶とグラスをキッチンに運び、それを洗って片付けても修一郎さんは部屋から出て来なかった。

いつもなら寝る前にも軽くキスを交わしていたけれど、さっきの空気感ではそれもためらわれる。
電話の相手も誰なのかわからないからノックして部屋の外から「おやすみなさい」と声をかけるのもどうかと思う。

考えた末にリビングのテーブルに先に休むことをメモに残して自分の部屋に入った。

なぜかどうにも居心地が悪い。

やっぱり早く区切りを付けるべきなんだろう。
今後の事を考えていると心の奥がざわめく。
私が修一郎さんに感じてしまっている感情を自分自身で持て余してしまい、大きくため息をついた。


翌朝の修一郎さんはいつも通りだった。

退社時間間際に愛理さんが専務室にやってきて嬉しいお誘いを受けた。今夜の集まりに私が参加しないことを修一郎さんが話したのだろう。

「ノエルちゃん、今日お留守番ですってね。女子会しよっか」

ニコニコしながら私の腕に自分の腕を絡ませた。

「姉さん、外食してもいいけど余り遅い時間までノエルを引っぱり回すなよ。あと、危ない所や怪しい所にはノエルを連れて行くなよ」

私達の背後から修一郎さんの少し不機嫌そうな声がした。

「うるさいよ、修一郎。たまにはノエルちゃんに自由をあげないと逃げられるわよ。あんたは束縛してばっかりなんだから。ノエルちゃんは私の妹なんだから大事にするのは当たり前でしょ」

そんな愛理さんの言い方が何だかとてもうれしい。
偽物の妹でも、妹だって言ってくれて大事だと言ってくれるんだ。