「大丈夫です。近くに知り合いがいますから。そちらを頼ります。ご心配いただきましてありがとうございます」
私は隊員に笑顔でお礼を言ってスマホを取り出した。

なおもお友達の男性と隊員は話しかけようとするから、スマホで通話を始めてそれを遮った。

「ごめん、ケイ。助けて。まだお店を出てすぐのとこにいるから」

「出発します!」

タイミング良く救急車から隊員に声がかかった。

受け入れ先が見つかったらしい。やっと救急車も出発できる。患者さんが心配だし、野次馬も増えてきて見られている不快感でいっぱいだったから早く出発して欲しい。

「連絡先だけでも教えてもらえないだろうか」

隊員が救急車に向かった後でまた、お友達に話しかけられるけれど、
「本当に結構ですから」
とお断りした。
しつこいよ。いいって言っているのに。

「でも」とまた男性が話はじめた時に私が待っていた声がした。

「エル!」

バッと振り向くとケイが野次馬をかき分けてこちらに近づいてきていた。

「ケイ」

ちょうど救急車が発進して行った。私も安心してこの場を離れられる。お友達がサイレンを鳴らして出て行く救急車に気を取られている間にケイの腕を引っ張って逃げるようにその場を離れた。


結局、ケイのお店に逆戻り。

さすがに正面からは入れないから裏口から入れてもらった。
ロッカールームで汚れたストッキングとパンプスを脱いでビニール袋に入れる。
あ、スカートもだめかも。

「何だよ、エル。だから知らない人に付いてくな言ったろ。寄り道しないで帰れって意味だったのに」
ケイは背中を向けてクスクスと笑っている。