ケイはクスクスと笑っていた。
「エルをここまで手懐けているとは。修一郎さんってスゴい人だな」

「やめて、ケイ。そんな事言わないでよ」

「いっそのこと、本当に結婚したら?」

ケイのそのひと言ではっとして冷静になった。

「そんな事できるはずがない」

「何でだよ。井原家と安堂家がつり合わないならともかく、誰も文句ないだろ」
私の冷めた表情を見てケイは憮然として言い返した。

「修一郎さんや井原家にそんなに迷惑はかけられないよ。決着がついたら終わり。それに、私は愛のない結婚はしない」

私はケイに言い放った。

「エル、どうして、井原さんが迷惑だって言いきれるんだよ。井原さんから申し出があった話なんだし。愛だって生まれるかもしれないだろ?」

「やめてよ、私は誰とも結婚なんてしない。私はそういうのいらない」
むっとして、ケイをにらんだ。

「早く決着をつけるためにも私が動かないとね」

私は大きく深呼吸をした。
そうだ、甘えてばかりいないでしっかりしなくちゃ。

まだケイがぶつぶつと何か言っていたけど、無視した。

しばらくして、タイミングを見て迎えに来てくれた愛理さんとケイにエスコートされてパーティー会場に入った。

会場に入るとケイは私と別れて舞台に向かい、私は愛理さんと共に井原のお母さまと一緒にいる私の母親の元に行った。

「まぁ、ノエルちゃん素敵よ」
すぐに井原のお母さまが声をかけてくれた。

「ありがとうございます。お母さま」

「ノエル、きれいにしてもらったわね」

私の母は涙ぐんでいた。
これじゃ、本当に婚約発表みたいじゃないかと苦笑する。

大々的に婚約発表をしてストーカーをおびき出す。
そんな戦いが始まる場なのに。