けれど、それは一瞬で覆されてしまった。
私の背後に誰かが立った気配がしたのだ。

若い男の子達のグループのようだ。混んでいるから仕方ないけど、すぐ後ろに人がいて男性の声がする。
それだけで鼓動が速くなり恐怖心がわき上がる。どうしよう。

そう思った途端、修一郎さんが動いた。
隣で私の肩を抱いていたのに、私の背後に回り込んで私を後ろ抱きにしたのだ。

「俺が守るって言っただろ。だから安心して」

後ろから抱きすくめられて耳元で囁かれたら、ドキドキしてもう何も聞こえなくなりそうだった。
何といっても相手はイケメンの修一郎さん。

佐々木さんは冗談で私の事を『姫』っていうけど、修一郎さんこそ本当に『王子様』だ。
見た目も中身も。

恐怖心は次第に薄れていく。

それから大水槽を離れカフェスペースに移動した。

「初めからやり過ぎたかな。ノエル、大丈夫か?」

心配そうに言われて私は首を横に振った。

「確かにちょっと焦りました。でも、修一郎さんがいてくれたからすぐに落ち着きましたよ」
と率直に言えた。

修一郎さんにはこれからも助けて欲しいから、無理に我慢したりして気持ちを偽らない方がいいと思ったのだ。

「そうか、よかった。でも無理するな」

「はい」
そう笑顔で返事をした。

それから
私は生クリームに木イチゴのソースがたっぷりかかったアイスフレーバーティーと格闘していた。

「・・・ノエル、何かとても苦労しているように見えるんだけど」と修一郎さんがクスクスと笑っている。

「あ、バレました?ごめんなさい、行儀が悪くて」
とペロッと舌を出した。

私は木イチゴのソースが下の飲み物と混ざらないように上の生クリームと一緒にすくって食べていたのだ。
普段なら決して人前ではやらないのになぜか知り合ったばかりの修一郎さん相手に普段の自分を出してしまっていた。

「カレーライスとかを食べる時もそうなんですけど、しっかり混ぜるのが何となくイヤなんです」
もちろん、混ぜて食べるんだけど、それはスプーンですくったところだけって感じで。
親子丼とかもそう。

オーバーに言うと、ざる蕎麦のつゆにわさびをまぜるけど、しっかりと混ぜない。
溶け残った固まりがあるくらいで食べるのだ。
たまにわさびの固まりが入ってきてツーンとして泣いてしまうのもいいと思っている。

修一郎さんは「素のノエルが見られた」と笑ってくれた。