「でも、私の問題が解決したら今度はこの偽の結婚が破談になりますけど・・・それは修一郎さんのマイナスイメージになってしまうんじゃ・・・」

大々的に披露したIHARAの御曹司とANDOの娘の婚約が破談になる。
私は私のせいだからいいけれど、修一郎さんに迷惑がかかるのは心苦しい。

私がそう言うと、佐々木さんと愛理さんは顔を見合わせてから2人で修一郎さんをニヤニヤしながら見て言った。
「まあ、ノエルちゃんが心配するような事態にはならないから安心して」と。

修一郎さんは愛理さん達を軽く睨んで
「ノエルは気にしなくていい。そうなっても企業間の提携とは関わりないから誰にも迷惑はかからない」
と言った。

「会社じゃなくて、修一郎さんの事です」
隣に座る修一郎さんを見つめて訴えた。
これって大事な事だから。

「ノエル。俺は男だからそんな事があっても全く気にしないよ。その辺はうまくやるから大丈夫だ」
と修一郎さんは苦笑している。

正面ではなぜか「ぷっ」と愛理さんが吹き出して修一郎さんに睨まれていた。


「さぁ!じゃノエルちゃんをIHARAの専務の婚約者に仕上げましょうね!」

愛理さんは立ち上がりリビングの入口に置いてある大量のショップバッグを広げ始めた。

「姉さん、とりあえずノエルを連れて買い物に行けるようにだけしてくれよ。後の荷物はクローゼットに入れて」
修一郎さんは困った顔をした。

「そうか、そうよね。まずこの部屋もノエルちゃんが住めるようにしなくちゃいけないし」
愛理さんは頷いた。

「ノエルさん、これはあなたの新しい携帯電話です」

私は佐々木さんからスマートフォンを渡された。

「安堂家の皆さんと修一郎君、愛理、私の連絡先は既に登録済みです。病院関係者とは申し訳ないですが、安全のためしばらく連絡を断って下さい」

私は昨日付けで体調不良で退職になっている。勤務シフトが心配だったけれど、そこはさすがに母の知人の病院である。私の代わりはすぐに手配されていた。